昨日、上司にこう言われた。
「これは、こうしておいて」
だから、その通りに進めた。
でも今日になって、同じ上司がまったく違うことを言う。
「なんでそうしたの?」
「普通はこっちでしょ」
一瞬、頭の中が止まる。
昨日は、そう言っていなかった。
むしろ、逆のことを言われた気がする。
でも、そこで「昨日はこう言われました」と言うのが、なぜか難しい。
ただ確認したいだけなのに、言い返しているみたいになる。
反抗しているつもりはない。
責めたいわけでもない。
上司の記憶違いを指摘して、勝ちたいわけでもない。
ただ、昨日と今日で言っていることが違うから、どっちに合わせればいいのか知りたいだけ。
それなのに、口に出す前に少し身構えてしまう。
「昨日はこう言われました」と言った瞬間、空気が変わる気がする。
上司の顔が少し固くなる。
周りの人が静かになる。
こちらが面倒な人みたいに見える。
そんな想像をしてしまって、結局、飲み込んでしまうことがある。
「すみません、直します」
そう言えば、その場は終わる。
でも心の中では、小さく引っかかったままになる。
昨日の自分は、ちゃんと聞いていた。
メモも取った。
言われた通りにやった。
それなのに、今日になって違うことを言われると、自分の記憶の方が間違っているのかもしれない、と思ってしまう。
何度もこういうことがあると、だんだん自信がなくなってくる。
「これで合っていますか?」と聞く回数が増える。
でも聞きすぎると、それはそれで「自分で考えて」と言われる。
考えて動くと、「なんで確認しなかったの」と言われる。
確認しても、あとから話が変わる。
こうなると、仕事そのものよりも、相手の記憶や機嫌を読むことに疲れてしまう。
たぶん、上司も悪気がない場合はある。
忙しくて忘れているだけかもしれない。
その場その場で考えが変わっているだけかもしれない。
本人の中では、話がつながっているのかもしれない。
でも、受け取る側はけっこうしんどい。
言われた通りにやったのに、あとから違うと言われる。
そのたびに、自分だけが小さく責められているような気持ちになる。
こういうとき、強く言い返せる人もいると思う。
「昨日はこうおっしゃっていましたよね?」と、落ち着いて確認できる人もいる。
でも、誰でもそれができるわけではない。
相手が上司だと、言葉を選ぶ。
職場の空気もある。
自分の立場もある。
正しいことを言えばいい、というだけでは済まない場面がある。
だから最近は、できるだけ言い方を変えるようにしている。
「すみません、私の理解では昨日こう受け取っていたのですが、今日はこちらに変更で大丈夫ですか?」
これなら、相手を責める言い方にはなりにくい。
「昨日と違いますよね」と言うより、「私はこう理解していました」と言う方が、少しだけ角が立ちにくい。
それでも毎回うまくいくわけではない。
でも、自分の中で「言い返しているんじゃなくて、確認しているだけ」と思えるだけでも、少し楽になる。
本当は、昨日言われたことを覚えている自分が悪いわけではない。
言われた通りに動いた自分が、間違っていたわけでもない。
ただ、職場ではなぜか、確認するだけの言葉にも気を使わないといけないことがある。
昨日と言っていることが違う。
その一言を飲み込んで、今日も何事もなかったように直す。
そういう小さな疲れは、案外、心に残る。