今どきは、動画も早送りで見る時代だ。
「みんな記憶力が高い」
「処理が速い」
「すぐ理解できる」
そんな空気を感じることがある。
アニメでも、ゲームでも、SNSでも、入ってくる情報の量が多い。
それに慣れていると、仕事も同じくらいのスピードで覚えられるはず、と思われているような気がする。
でも実際には、そんなに簡単にはいかない。
仕事は、動画みたいに一時停止できない。
聞き逃したところを、すぐ巻き戻すこともできない。
その場で聞いて、その場でメモして、その場で理解したふりをして、あとからひとりで思い出そうとする。
それが、しんどい。
覚えられないのは、やる気がないからではなく、最初から入ってくる情報が多すぎるだけなのかもしれない。
一度に入ってくる情報が、多すぎる
職場に来たばかりのころは、覚えることが多すぎる。
人の名前。
部署名。
仕事の流れ。
社内ルール。
使うシステム。
書類やファイルの場所。
その会社だけの言い回し。
暗黙のルール。
これを全部、同時に覚えながら動かないといけない。
しかも職場によっては、「一回言ったら覚えるのが普通」という空気がある。
でも実際には、一回聞いただけで定着しないことの方が多い。
聞いた瞬間は分かった気がしても、いざ自分でやろうとすると手が止まる。
「あれ、どこを開くんだっけ」
「この場合は誰に確認するんだっけ」
「さっき聞いた言葉、どういう意味だったっけ」
そんなふうに、記憶がまだつながっていないことがある。
それは、覚えが悪いのではなく、情報がまだ頭の中で整理されていないだけ。
入ってきた順に、まだ箱に分けられていない。
だから、必要なときにすぐ取り出せない。
覚える力の問題ではなく、整理に時間がかかっているだけのことが多い。
メモを取っても、すぐ使えるとは限らない
「メモを取っておいて」と言われることがある。
もちろん、メモは大事だ。
でも、メモを取ったからといって、すぐに全部できるようになるわけではない。
急いで書いたメモは、あとで見ると意味が分からないことがある。
自分では分かるつもりで書いたのに、いざ読み返すと、手順が飛んでいる。
「この画面の次に、何を押すんだっけ」
「この言葉は、何のことだったんだっけ」
そんなこともある。
メモを取っていないわけではない。
覚える気がないわけでもない。
ただ、その場では聞くことに必死で、あとから使える形にする余裕がないこともある。
そこまで含めて、新人の「覚える」は時間がかかるのだと思う。
情報が速いことと、仕事を覚えることは違う
情報処理が速いことと、仕事を覚えることは、少し違う。
仕事には、体で覚える部分がある。
電話の取り方。
上司に声をかけるタイミング。
書類を出す順番。
忙しいときの空気。
誰に先に伝えるべきか。
こういうものは、説明を聞いただけではなかなか身につかない。
何度かやって、少し失敗して、また確認して、少しずつ分かっていく。
頭では分かっていても、実際にその場になると動けないことがある。
それは、できていないのではなく、まだ経験が足りないだけだ。
動画をいくら速く見られても、これだけは早送りできない。
体で覚える部分は、どうしても時間が必要になる。
そこを急かされると、余計に苦しくなってしまう。
「なんで覚えられないの」と言われると、苦しくなる
覚えようとしているのに、「なんで覚えられないの」と言われると、心に残る。
「前にも教えたよね」
「メモ取ってたよね」
「そろそろ覚えて」
そう言われると、自分でも焦ってしまう。
覚えたいのに覚えられない。
確認したいけど、また聞くのが怖い。
聞かなかったら間違えるかもしれない。
その間で、どんどん動きづらくなる。
責められるほど、頭が真っ白になることもある。
本当は覚えたい。
ちゃんとできるようになりたい。
でも、焦れば焦るほど、覚えたはずのことまで抜けてしまう。
そういう日もある。
できていないんじゃなくて、まだ整理している途中
新人時代に覚えられないのは、さぼっているからではない。
まだ、入ってきた情報を整理している途中だからだ。
自分のペースで、少しずつ箱に分けていくしかないこともある。
昨日より少し分かった。
前より少し聞きやすくなった。
一度見た画面を、少し覚えていた。
同じミスに、少し早く気づけた。
そういう変化は、外からは見えにくいかもしれない。
でも、頭の中では、ばらばらだった情報が少しずつつながり始めている。
覚えるのが遅いと思ってしまう日があっても、それだけで自分を責めすぎなくていい。
たくさんの情報が、一度に入ってきただけ。
それを今、自分のペースで整理している。
そう思えるだけで、少しだけ楽になることがある。