静かな職場で、電話が鳴る。
プルルルル……
ただそれだけで、心臓がビクッとなることがある。
「誰が出る?」
「自分が取った方がいい?」
「会社名、ちゃんと言えるかな」
「相手の名前、聞き取れるかな」
一瞬で、頭の中が忙しくなる。
慣れている人から見たら、電話に出るだけに見えるかもしれない。
でも新人にとっては、電話が鳴った瞬間に、いくつもの不安が一気に来る。
だから、電話が怖い。
それは大げさではなく、本当に心臓が跳ねるような感覚がある。
電話に出るだけなのに、やることが多すぎる
電話対応は、「出て、聞いて、つなぐだけ」に見えることがある。
でも実際には、その短い時間の中で、いろんなことをしている。
会社名を言う。
相手の名前を聞く。
用件を聞く。
担当者を探す。
保留にする。
誰につなぐか判断する。
必要ならメモを残す。
しかも電話は、相手の顔が見えない。
表情も分からない。
口の動きも見えない。
聞き返すタイミングも迷う。
だから、
「今の、聞き返していいのかな」
「名前を聞き間違えたかも」
「保留ボタン、これで合ってる?」
「間違って切ったらどうしよう」
そんなことが、頭の中で一気に流れる。
ただ受話器を取っているだけなのに、中ではかなり焦っている。
新人の電話対応が疲れるのは、この見えない忙しさがあるからだと思う。
名前が聞き取れないのが、一番きつい
電話で一番つらいのは、相手の会社名や名前が聞き取れないときだ。
早口だったり、聞き慣れない会社名だったり、声が少し遠かったりすると、一回では分からないことがある。
本当は、「もう一度お名前を伺ってもよろしいでしょうか」と言えばいい。
それは頭では分かっている。
でも、実際の電話では、その一言がなかなか出てこない。
聞き返したら失礼かな。
何度も聞いたら怒られるかな。
自分だけ聞き取れていないのかな。
そう考えているうちに、さらに焦って、余計に聞こえなくなる。
焦るほど、聞き取れない。
聞き取れないほど、さらに焦る。
電話の怖さは、その悪循環にあるのかもしれない。
周りに聞かれている気がする
職場が静かだと、電話の声は思っているより響く。
自分の声も、周りに聞こえている気がする。
言い方が変じゃないかな。
敬語はこれで合っているかな。
声が小さすぎないかな。
今の対応、あとで注意されるかな。
電話の相手だけではなく、職場の人にも見られているような気持ちになる。
それが、余計に緊張する。
本当は、周りの人はそこまで気にしていないのかもしれない。
でも新人のころは、自分の一言一言が全部聞かれているように感じる。
だから、電話を取るだけで、ただ話す以上のエネルギーを使ってしまう。
失敗すると、次の電話がもっと怖くなる
一度でも電話で失敗すると、次がもっと怖くなる。
名前を聞き間違えた。
担当者を間違えた。
保留がうまくできなかった。
メモが残せなかった。
相手を待たせてしまった。
そういうことがあると、電話が鳴るたびに思い出してしまう。
また間違えたらどうしよう。
また変な対応をしたらどうしよう。
また周りに聞かれていたらどうしよう。
そう考えているうちに、電話の音そのものが苦手になっていく。
ただの着信音なのに、体が先に反応してしまう。
電話が鳴っただけでビクッとなるのは、怠けているからではなく、過去の緊張が残っているからかもしれない。
電話が怖いのは、まだ地図がないだけ
新人の電話対応には、実はたくさんの情報が必要だ。
社内の人の名前。
部署。
担当している仕事。
取引先の名前。
よくある用件。
折り返しでいい内容か、急ぎの内容か。
慣れている人は、それを自然に判断できる。
でも新人は、まだその情報がそろっていない。
誰につなげばいいのか。
どこまで聞けばいいのか。
この用件は急ぎなのか。
まだ分からない中で、すぐに判断しなければいけない。
だから怖い。
これは、やる気や能力の問題ではない。
ただ、まだ職場の地図ができていないだけ。
その地図がない状態で電話を取るのは、かなり大変なことだ。
手元にメモを置いておくだけでもいい
最初から完璧に電話対応できる人は、そんなに多くない。
何度も聞き返して、名前を覚える。
保留ボタンの場所を覚える。
よくかかってくる会社を覚える。
誰につなぐことが多いのかを覚える。
そうやって、少しずつ慣れていく。
だから最初のうちは、メモを手元に置いておくだけでもいい。
会社名の言い方。
聞き返す言葉。
保留するときの言葉。
担当者が不在のときの言葉。
それを紙に書いておくだけで、電話が鳴ったときの焦りが少し減ることがある。
たとえば、
「恐れ入ります。もう一度お名前を伺ってもよろしいでしょうか」
「少々お待ちください」
「確認してまいります」
このくらいの言葉を用意しておくだけでも、少し安心できる。
電話が怖い自分を、責めなくていい
電話が鳴るだけでビクッとする。
それは、弱いからではない。
知らない相手の声を聞いて、名前を聞き取って、用件を理解して、誰につなぐか判断する。
新人にとっては、それだけで十分むずかしいことだ。
しかも周りに聞かれている気がする中で、落ち着いて対応しようとして444
それだけでも、かなり頑張っている。
電話が怖いのは、仕事ができないからではなく、慣れない中でちゃんとやろうとしているからだと思う。
最初はビクッとしてもいい。
少しずつ聞き返せるようになって、落ち着いて取れるようになればいい。
電話が鳴るたびに緊張する自分を、あまり責めすぎなくていい。